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【詳細レポート】 地域共創リビングラボリーダーズ会議

2021.01.15

参加者:久元喜造神戸市長、長谷部健渋谷区長、牧原出教授(先端研)、小泉秀樹教授(先端研)

牧原教授から、皆が憧れる街の風合いや懐の深さを感じるなどの共通点があるまちとして神戸市と渋谷区が紹介され、クロストークが始まりました。

【自治体でのテレワーク導入について】
自治体では情報セキュリティの問題もあり、WEB会議システムなどテレワークに必要な仕組みのスムースな導入が難しい状況にあると言われています。そんな中、神戸市では、新型コロナウィルス感染拡大が顕著になった第一波の時点で、職員のテレワークを積極的に推奨したそうです。何重かの情報セキュリティを重ねるなどの工夫により、役所の端末を自宅に持ち帰り業務を行う事が可能になったことが紹介されました。しかし、現在はテレワークの実施数はかなり減り、市役所の中の雰囲気はコロナ禍以前に戻りつつあるそうです。
一方渋谷区では、以前から職員が一人一台専用のタブレットを持っており、コロナ禍でもタブレットを利用して自宅で同じように作業が出来る環境を作っていたそうです。しかし、実際に何日も自宅で勤務するという想定では無かったため、例えば住宅では快適な執務環境が得にくい場合があることに気付いたと、長谷部区長はいいます。これから先は自宅の近くのテレワークしやすい環境の整備も必要だと、付け加えました。
小泉教授は、デジタル技術を活用した職住環境の整備を含む都市のスマート化はますます進行していくと言います。一方、このコロナ禍で、リモートワークだけでは多様な人が集まって新しい社会的環境を作ることに限界があることも分かり、神戸市や渋谷区の魅力でもある「人と人が会って語らう」場や行為の価値や意義を丁寧に説明していくことが、今後のまちづくりの大きなテーマになるとコメントしました。

【民間企業、住民がリモートワークをしている上での自治体としての役割】
神戸市には、市の広報業務をオンラインで支援する副業人材を広く一般から募集する取り組みがあるそうです。特にウィズコロナの時代、副業は新しい働き方の一タイプとして広がりを見せていますが、久元市長は、都会の民間企業の優秀な人材が副業で地方を支え地方は彼らに新たなネットワークを提供するという新しい社会的繋がりが地方都市を起点に生まれることに、期待を寄せています。
一方渋谷区では、コロナウィルス感染拡大前から教育現場でのICT活用を進めており、緊急事態宣言下でのリモート授業対応は比較的スムースに進んだそうです。それでも、成長期の子供達が受けた影響は計り知れないと、長谷部区長は言います。子どもたちだけでなく、高齢者の孤立が顕著になったことも新たな課題として浮き彫りになり、教育だけでなく福祉分野をはじめとする様々な分野でのICT活用が不可欠だと気付かされたそうです。それを踏まえて、高齢者へのスマートフォン配布や支援人材配置、サービス構築等の実証実験を行うアイデアも生まれたようです。長谷部区長は、渋谷区の重要な役割は、都心が高齢者や基礎疾患があるなど高リスクの方々にとって住みにくい場所にならないよう、世代を超えて様々な人達が支え合う都心暮らしの魅力を発信していくことだと強調しました。

【ICT導入の決断の背景】
視聴者から、渋谷区においてICT導入がコロナ以前に進められた背景、未整備の現場へのサジェスチョンについて、質問が寄せられました。
長谷部区長は、予算の確保と議会の承認が重要と言います。渋谷区では、出来る限り民間とタッグを組むことでコストを抑えるだけでなく、渋谷のブランド力も向上する「渋谷区モデル」を提唱し、理解を集めていきました。結果、教育ICT基盤などの整備を民間と連携してコロナ前に進めることができました。このコロナ禍で、渋谷区の皆さんがICT化を進めて良かったと感じているそうです。
一方で、課題も顕在化しました。例えば、現場の裁量によって子供たちが受けられるサービスに差が出てきます。まずは、教育分野のサービスを平準化していくことを目指しているそうです。

渋谷区長 長谷部健氏

神戸市長 久元喜造氏

【コロナ禍を経た、都市計画やまちづくりの方針の変化】
小泉教授は、コロナ禍を経て、今後の都市計画の方針やまちづくりのフォーカスが変化する可能性を指摘しました。例えば、リモートワークの進展で通勤時間を他の用途に活用できるようになり、自宅周辺を散歩する人が増えるなど、人々の日常行動が変化していることを例にあげます。住まいを中心とした生活圏の中で様々な活動が可能になる、徒歩圏内のまちづくりの構想が生まれてくるかもしれないといいます。モビリティ自体も進化し、移動する事に様々な価値をもたらす新しい交通も、今後の都市の必要不可欠な要素になるのかもしれません。
牧原教授は、神戸市六甲山のスマートシティ化や渋谷区の緑道構想など新しいまちづくりの展開を取り上げ、都市の魅力の引き出し方について、両氏に考えを聞きました。
久元市長は、六甲山のスマートシティ構想は、自然共生区域を多く抱える神戸市の新しい規制緩和のチャレンジだと言います。もともと保養所や別荘だった場所を市街地と同じように働く場所に変換することで、行政と利用者が一体となってインフラを維持する仕組みができ、この仕組みを他の里山地域や、荒廃している山林エリアなどへも展開していくことを考えているそうです。
長谷部区長は、自分たちだけでは解決できないようなことを産官学民が連携しながら創発することで、さらなるイノベーションを起こすきっかけを作ろうとしていると言います。自分たちの世界にとどまらず、領域を超えてアライアンスを組み、一緒に課題を解決していくことが、新しいまちづくりには必要だと強調しました。

牧原出教授

【産官学民の連携】
視聴者から、民間企業との連携でまちづくりを進める上での制度、規制、事業支援等の工夫について質問が寄せられ、両氏が答えました。
長谷部区長は、ローコストで参画者のメリットを最大化するタイアップの仕組みを挙げました。渋谷区は、LINE社をはじめ、大学も含む30社近くとシブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー協定を結び、それぞれがお互いのリソースを掛け合わせ、市場の開拓やサービスの質の向上を実現しているそうです。
久元市長は、アーバンイノベーション神戸という取り組みを挙げました。役所の職員が困っていることをとにかく表出させ、解決策をスタートアップ企業から募集するという事業です。職員の皆さんが抱える悩みが解決するだけでなく、企業の皆さんがやりたいことも実験的に試すことができるという、ウィンウィンの仕組みだそうです。過程の対話や議論も、互いの成長につながり、実り多い取組になっているようです。さらに、SNSやEC運営会社との連携協定の締結によって、実証実験や実際のサービス展開も進化しつつあり、企業とのアライアンスの重要さを実感しているといいます。また、久元市長は、組織ごとのアライアンスだけでなく、市職員に外部人材を起用することも、情報システムやデジタルトランスフォーメーションなどが進化していく時代では非常に重要だと強調しました。

小泉秀樹教授

第1回目のクロストークでは、神戸市長と渋谷区長をお迎えし、それぞれのまちづくりの取り組みや今後の構想を語っていただきましたが、両氏共に、市民、民間企業、大学、さらに組織や国籍などの領域を超えて人々が「スクラム」を組むことの重要さを強調したのが印象的でした。クロストークの中ででも、多方面から知恵と力を合わせて困難を乗り越える様々な取り組みが紹介されました。
我々が当たり前だと思っていた日常生活が新型ウィルスという目に見えない脅威に晒されている今だからこそ、不得意な部分を補うだけでなく、互いのメリットを最大化しようとするポジティブさが大切なのだと気付かされた機会となりました。

先端研の地域共創リビングラボでは、これからも様々なリーダーをお迎えし、リーダーだからこそ感じる「共創」の枠組みを語っていただく「リーダーズ会議」を重ねて参ります。その中から、「共創」の新たなアイデア、新たなつながりを見出し、しなやかな社会を形成する一助となっていきたいと考えています。

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